ワインの歴史が一夜にして変わる…前代未聞の大逆転劇、「パリスの審判」とは?

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19765月、ワインの歴史上もっとも衝撃的な事件が起こりました。以後、「パリスの審判」と呼ばれる事件です。

パリスの審判は、フランス・パリでおこなわれた、「ブラインド・テイスティング」というワインに関するイベントを指します。アメリカのカリフォルニアワインを欧州へ売り込むために企画されたイベントです。

本来、ブラインド・テイスティングはある意味の茶番であり、何事もなく終わるはずでした。しかし、その場にいた全員が予想していなかった展開を迎え、ワインの歴史は一夜にして塗り替えられました。今回は、のちに「前代未聞の大逆転劇」と呼ばれることになる、パリスの審判について解説します。

パリスの審判の舞台となった、ブラインド・テイスティングの幕開け

まず、「ブラインド・テイスティング」の趣旨についてお話ししましょう。

これは、フランスワインとカリフォルニアワインを「ラベルは伏せた状態」で、飲み比べするというもの。

いわゆる、芸能人格付けチェックみたいなことですね。

イベントは、

  • フランスワインから4
  • カリフォルニアワインから6

合計で10本をテイスティングする形で進められました。

そして1位から10位を発表。

これを赤・白一回ずつおこないます。

両者のワインの順位分布を見て、総合的に勝ち負けを判断します。

ただ、どちらが1位を獲得するかは非常に重要されていた様子です。

ちなみにカリフォルニアワインの方が1本多いのは、ハンディキャップです。

少しはまともな勝負になるように、フランスワインが手加減したわけですね。

フランスワインとカリフォルニアワインには、当時は雲泥の差がありました。

ボルドー・ブルゴーニュ・シャンパーニュ・プロヴァンス….

名産地を多く抱え、世界でもっとも素晴らしいワインを擁します。

そして、数百年におよぶ歴史に裏打ちされた製法。

地理的に完璧な土壌と気候。

とにかくフランスは、ワイン最強国だったのです。

イベントで提出されたのは、

  • 赤がボルドーのメドック地区で作られたもの
  • 白はワインの聖地ブルゴーニュで作られた最高級白ワイン

対してカリフォルニアワインは、つい最近出てきたひよっこです。

カリフォルニアは名産地ではありません。

そして、歴史も地理も、フランスには大きく劣ります。

そして、イベント会場はパリ。

さらに審査員は全員フランス人。

わかりやすくサッカーで例えると、小学校のサッカークラブが、パリサンジェルマンと試合をするのと同じことです。

しかも試合会場はパリサンジェルマンの本拠地です。そして、観客は全員パリサポーター。

審判もパリサンジェルマンの息がかかった連中。

もちろんチームのフォーメーションは、キーパーからストライカーまでワールドクラスの布陣でした。

つまり、カリフォルニアワインは、「絶対に勝てないように」仕組まれていたのです。

1本多く提出しようが、そんなことはどうでもいいことでした。

フランスは、フランスのためだけに結果を操作できる状態だったのです。

1本ゆずって、その上で叩きのめすという考え方だったでしょう。

カリフォルニア陣営も、勝てるとは思っていなかったようすです。

要するに、

「パリサンジェルマンに負けるとしても、1シュートくらいは打てるよ」

とアピールできればそれでよかった様子です。

目的は勝つことではなく、カリフォルニアワインを露出させること。

「まあ、カリフォルニアワインもたまには飲もうか」。

そう思ってもらえればよいのです。

一方のフランスワインは、「軽くカリフォルニアワインをいなすの」が筋書きでした。

「悪くはなかったよ、まあ、我が国には一生勝てないけれど。」

そのように皮肉って終わるはずでした。

しかし、とんでもないことが起こったのです。

白ワインの審査結果を開票したところ、カリフォルニアの「シャトー・モンテレーナ」」が圧勝したのです。

会場はざわつき、審査員は顔面蒼白になります。

カリフォルニア陣営も「何かの間違いだろう」と思ったようです。

しかし、何度計算しても、カリフォルニアワインが勝っているのです。

パリ・サンジェルマンのゴールマウスが小学生のシュートによって陥落したのです。

赤ワインでまさかの敗北を喫したフランスは、パニックに陥ります。

もし白ワインでも負けてしまえば、フランスの名誉は地に落ちる。

今までの歴史がすべてひっくり返ってしまう。

審査員たちは決意しました。

「フランスワインと感じられるワインには、高得点を与えよう」

当然、褒められたことではありません。

息のかかった審判が、パリ・サンジェルマンに対して忖度するのと同じです。

しかも、小学校のサッカークラブ相手に。

しかし、たとえ手を汚してでもフランスワインの品位を守らなければいけない理由があったのでしょう。

フランスワインとおぼしきワインには高得点を。

そしてカリフォルニアワインとおぼしきワインには低い点数を与えます。

パリ・サンジェルマンのファウルを見逃し、小学生には些細なことでファウルを取り続けたのです。

そして、勝ったのは小学生でした。

「スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ」。

カリフォルニアの小さな小さなワイナリーから作られた白ワインです。

おそらくソムリエたちが、カリフォルニアとフランスの見分けを、そもそも間違っていたのでしょう。

むしろフランスワインに低い点数を与えたこともあったはずです。

ちなみに審査員たちは、売国奴として吊し上げられます。

フランス国民たちの怒りようから、ワインへの執着が読み取れるでしょう。

フランス人はフランスワインに、特別な誇りとプライドを持っていたのです。

しかし誇りは傷つけられ、プライドは細切れにされました。

後に残ったのは、「世界一」という名声に対する「奢り」だけでした。

名誉の奪還を! 二度目の審判

パリの審判は、初審だけでは終わりませんでした。

フランス側が、一度目の結果にクレームをつけたのです。

「ウチのは熟成されていないから、不利だった」という理屈でした。

フランスは、一度負けて、大事なものをたくさん失いました。

大事なものを取り戻すには、今度こそ勝つしかありません。

一度目の審判が、偶然だったと証明しなければいけないけないのです。

フランスは再戦を熱望しました。

そして、負けても失うものがないカリフォルニアは、この勝負を受諾します。

会場は、ロンドンとナパ。

実質的なホームアンドアウェー形式です。

結果は……カリフォルニアワインの勝利でした。

フランスは自らの手で、一度目の審判が偶然でないことを証明してしまったのです。

フランスワインの栄光は、地に落ちてしまいました。

泥沼、パリスの審判は三度糾弾する

三度目の審判がおこなわれたのは、2006年。

まだフランスは諦めていなかったのです。

世間はすっかり、ワインはフランス一強であるという考えを忘れていていました。

今やヨーロッパ外のワインが「新世界」などと名乗り、市場を席巻しています。

フランスとしては、面白くありません。

もう一度、フランスワインを特別な地位に押し上げるべく、三度目の戦いへ挑みました。

最初の審判から30年、フランスワインは再び輝きを取り戻す、そのはずでした。

もはやフランスワインは、カリフォルニアワインに対する挑戦者でした。

一切の手加減なく第一線で輝くワインを並べます。

全盛期フィテッセがごとく最高の布陣で望んだのです。

しかし結果は1位から4位までをカリフォルニアワインが独占。

三度目にして、ほぼ最悪の結果、とかく救いようのない負け方をしたのです。

これまでの屈辱を晴らすどころか、一度目から比較してさらに大差が付けられている状況。

フランスワインは輝きを取り戻すどころか、さらに致命的な傷を負いました。

それどころか、「もう二度と、カリフォルニアワインには及ばない」とすらい言われたのです。

もはや何度やっても学ばない、愚か者といった風潮すら感じられました。

カリフォルニア陣営は、三度目の勝利をいたく喜びました。

しかし、いくらなんでもフランス陣営が少し気の毒だったのかもしれません。

カリフォルニア陣営は、

「この勝利を喜びたい。しかし、この勝負は、今回限りで終わりにした方がよいのでは」

と、語りました。

四度目の審判

しかし2017年、パリの審判は四度目を迎えることとなります。

舞台は日本、東京。

フランスでもなければアメリカでもない中立国開催でした。

もう言うまでもなさそうですが、やはり結果はカリフォルニアの勝利です。

ここまでくると、「カリフォルニアワインはフランスワインによって引き立てられているでは?」と、思ってしまうレベル。

これがパリスの審判におけるラストマッチで、未だフランスワインは許されていません

五度目の審判はあるのか

1976年から2017年、40年にわたって繰り返されたパリスの審判。

4度にわたる敗北で、フランスワインは大きなものを失いました。

1度目で引いておけば、「あれは偶然だったのでは?」という風潮でとどめられたはず。

しかし、一度の負けも許せないプライドが、結果としてフランスを苦しめました。

もう、戦いは見飽きたような気さえあります。

そろそろフランスワインも諦める時ではないか。

たしかに、カリフォルニアワインには相性が悪かったのかもしれません。

だからといって、フランスワインが素晴らしいものであることに変わりはないでしょう。

今更カリフォルニアワインを倒したところで、何か得るものがあるわけでもありません。

フランスワインはフランスワイン。

カリフォルニアワインは、カリフォルニアワイン。

一人のワインラバーとしては、これを、もっとも尊重すべき審判だとして、位置付けて欲しいと思っています。

まとめ

ワインの世界は不思議なものです。

  • 小さなワイナリーが突然巨大シャトーに成り上がったり
  • たかがぶどう酒に億の値段がついたり
  • なぜか雪に降られたほうが美味しくなったり

奥深く入り組んでいて複雑です。

しかし、もっとも衝撃的で不可解なのは、やはりパリスの審判でしょう。

最強国フランスが、弱小国カリフォルニアに四度も負け続けたこの歴史を、おいそれと受け止めることはできません。

そしていまだに、リベンジマッチを繰り返しても、フランスは一度も勝っていないのです。

これは、バッカス(酒の神)が、フランスに「驕り昂るな」と言っているのでしょうか?

もしくは、カリフォルニアに「片田舎の生産地終わってはいけない」と言っているかのようです。

できれば五回目の審判がないことを祈りたいですが、今後いつか、フランスとカリフォルニアが激突する日がくるかもしれません。

個人的にはもう終わりして欲しいのですが、そのときくらいは、フランスに雪辱を果たしてもらいたいようにも思います。

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